あれから、私と善逸くんの距離は近付いたと思う。

それは、彼の私を見る視線が変わったこと。
なんともむず痒い感情が、私の中で生まれたことが関係しているだろう。

彼の視線の意味も、自分の中に生まれた感情の意味も、
分からないほど私は鈍感ではない。

でも、この温かな感情とは裏腹に、ネガティブな感情が大きくなっていることも確かだった。





日に日に曖昧になっていく元の世界の記憶。
あの人の名前も、顔も、声も、仕草も、思い出せなくなっていく。
これが何を意味するかなんて、自分がよく知っている。

ただただ、私は怖いのだ。




きっと善逸くんも、こんなぐちゃぐちゃした私の感情に気付いているだろう。






















「え、これから任務なの?」

善逸くんは順調に回復し、任務復帰を果たすことになった。
あのときのことがフラッシュバックして、不安で仕方がない。

たぶん、私は相当変な顔をしていたんだろう。
善逸くんが困ったように笑って言った。


「大丈夫だよ。ちゃんと帰ってくるから」
「・・・うん」
「じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」


私を安心させるように、私の手をぎゅっと握ってから、善逸くんは任務に行ってしまった。


























善逸くんは、言葉通り無事に戻ってきた。

おかえり、と言うと笑って、ただいま、と言ってくれた。
何ともなさそうな善逸くんの姿にほっとしていると、


「なまえさん、ちょっといい?」

不意に善逸くんが私を、人気の少ない縁側へと誘った。



「どうかした?」
「うん・・・なまえさん、手、出して?」
「え?」
「いいから」


よく分からないまま手を差し出すと、ころん、と蜂蜜色の飴玉がいくつか転がった。
これには私も見覚えがあった。


「善逸くん、これ・・・」
「うん。なまえさんと初めて会ったとき、くれた飴。なまえさん、珍しいって言ってたでしょ?任務の帰りに見付けたんだ。いつも貰ってばかりだったから、今回は俺からなまえさんにと思って」
「・・・嬉しい。最近食べてなかったから」


あまりの嬉しさに頬を緩ませると、善逸くんも嬉しそうに笑った。

かと思うと急に真剣な表情になる。





「善逸くん?」
「なまえさんに、伝えたいことがあるんだ」
「・・・え?」

善逸くんが、まっすぐに私を見ている。
熱を帯びた視線、うっすら赤みがかった頬、少し低い声。
独特の雰囲気に、彼の言いたいことが読めてしまった。





「なまえさん」



やめて。



「俺・・・」



まだ聞きたくない。









「なまえさんのことが好きだよ」




私には、まだ君の気持ちに応える覚悟も資格もないのだから。